製造工程においても保存時においても、温度管理は日本酒の美味しさを決定づける重要なファクター。SAKE CELLAR®は、日本酒の長期保存に適した「マイナス5度」まで温度調整ができる新しいセラーだ。その発売にあたって、徹底した温度管理を追求している蔵元を訪ね、その必要性を紐解いていく。
今回お話をうかがったのは、山紫水明の地、三重県名張市にある「木屋正酒造」。約200年にわたり真摯に酒造りと向き合ってきた蔵元として知られ、創業当時の姿を今に残す蔵は、登録有形文化財に指定されている。
2005年に立ち上げた新ブランド「而今」は、これまでの製造工程をすべて見直し、マイナス温度での熟成・保存をするなど、伝統を重んじながらも、常に最新の技法を模索し続けている。
「私が木屋正酒造を継いだのは2005年。その当時、蔵の主力銘柄だった『高砂』の売上が伸び悩んでおり、新しい日本酒ブランドの必要性に迫られていました」
木屋正酒造6代目の大西氏は、全国の日本酒ファンから高く評価されている「而今」誕生の経緯を語ってくれた。その開発・製造にあたっては、従来の工程を大きく見直したという。
「以前、乳業メーカーに勤め、醸造試験所で勉強していたこともあって、工程管理、特に温度管理と衛生管理の大切さを実感していました。温度管理は、生酒ならマイナス5度、火入れでもマイナス3度〜3度くらいで熟成を進めています。もろみの品温管理を徹底しないと、発酵期間が短くなってしまい、旨味が乗らなかったり、甘みに乏しかったりと、薄辛いお酒になってしまうのです。また、日本酒は麹菌と酵母がつくるものなので、その2種類の微生物がうまく働くような環境を整えることにも苦心しました」
細部にまで気を使い、低温で、じっくりと発酵させていくことで生まれる「而今」。そのフレッシュでジューシーな味わいは、多くの人を魅了してやまない。
ただ、その美味しさを十二分に堪能する上で、保存する環境はとても重要だという。
「『而今』は、生酒はマイナス温度、火入れした商品についても冷蔵保存を徹底して欲しいと伝えています。だから、取引先にきちんと保存環境が整っているかどうかは、僕にとっては非常に大切なこと。もし、常温の棚に『而今』が置かれているのを見ると、少し残念な気持ちになるでしょうね」
生酒は「要冷蔵」の表記が必須と定められているが、「而今」ブランドは生酒に限らず、全ラインナップに「要冷蔵」の表記が入っている。そこには、「一番美味しい状態で日本酒を楽しんでもらいたい」という大西氏の想いが込められていた。
「而今」の保存方法については、取引先一つひとつにきちんと説明をしているという大西氏。しかし、日本酒というジャンル全般を見渡したとき、保存方法に関する啓蒙活動は十分ではないと感じているという。
「『日本酒ってアルコールだから腐らないでしょ?』『保存食みたいなものなんじゃないの?』と誤解している人は少なくありません。でも、日本酒は、肉や魚と同じく『生鮮食品』なんです。そして、有名な精肉店や鮮魚店には優れた技術があるように、いい酒屋さんは『温度』と『提供するタイミング』をしっかり管理してくれています。入荷してすぐに冷蔵保存してくれる酒屋さんと、煩雑に棚に置いてしまう酒屋さんとでは、同じ日本酒でも味が違っているはずです」
実際、日本酒を氷温®で保存しているのは、一部のファンだけというのが現状だ。しかし、すべての日本酒を氷温保存すべきかと言うと、それは正しくないと大西氏は補足する。
「日本酒の最適な保存温度は、蔵ごと、銘柄ごと違います。常温保存を推奨している蔵もありますし、燗酒や熟成酒といったタイプもある。そこは蔵元の考え方や哲学に則った保存方法で楽しむのがベターだと思います。また、海外も含めこれから日本酒を広めたいと思う酒屋さんも正しい保存方法を学び、それをお客さまにも共有していってほしいと思いますね」
さらに、日本酒の保存方法に対する意識を変えるためには、酒造りの背景にある「ストーリー」を伝えることも大切だという。
「日本酒造りは、子育てと一緒だと言われることがあります。手間暇がかかり、一つひとつのタンクごとに個性が違い、だからこそ面白い。ただ機械任せに造るのではなく、造り手の感性を溶け込ませる。単なる加工品ではなく、手工芸品のように丁寧に気持ちを込めて造っているんだという物語も、伝えていきたいですね」
「而今」には、「過去にも囚われず、未来にも囚われず、今をただ精一杯生きる」という意味がある。銘柄ごとの背景やストーリーがもっと伝わっていけば、「日本酒を適切に保存し、楽しむ」という文化も浸透していくことだろう。
「マイナス5度までの温度管理ができるSAKE CELLARが普及すれば、適切な保存が可能になるのはもちろん、日本酒の楽しみ方も広がっていくでしょう」と、大西氏は期待をこめて語ってくれた。
「まず、2つの温度に分けて保存ができるというのは理想的だと思います。たとえば、もう少し熟成させたいお酒は5〜10度で保存し、味を変化させたくないお酒はマイナス5度で保存するなど、自分の好みに合わせて貯蔵方法を切り分けることができますから。実は、日本酒を買われたお客さまも、『造り手』の一人なんですよ」
大西氏のこの言葉には、日本酒を適切に保存することの大切さ、楽しさが集約されているように感じられた。
「また、SAKE CELLARがあれば、醸造年度ごとの飲み比べという、日本酒の新しい楽しみ方も広まっていくと思います。家庭用冷蔵庫で保存しても、1年もすれば熟成が進んでしまうので、純粋な飲み比べはできません。しかし、マイナス5度で保存ができれば、ワインのように、ヴィンテージ違いの飲み方も楽しめるようになるでしょう。日本酒の奥深さは、ワインにだって負けていないと思いますよ」
SAKE CELLAR®は、日本酒の美味しさを最大限に保つために開発された日本酒セラーです。
プレミアムな日本酒の本来の美味しさを保つことができます。